サキシマミノウミウシの変遷

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サキシマミノウミウシ

サキシマミノウミウシというウミウシは伊豆では非常にポピュラーなウミウシですが実は名前が大混乱しているウミウシでもあります
調べていて疑問がだいぶ解けたので興味がある人は読んでみてください

※ 2021/5/25日に加筆修正しました。

Opisthobranchia of the Ryukyu (Okinawa) Islands.

Opisthobranchia of the Ryukyu (Okinawa) Islands.

Coryphella omala RISBEC, 1928

体長は約10mmである。口腔触手は非常に細長く、頭部の前・後端にある。鼻孔は窪んだ形をしており、上部は非収縮性で剥離している。分岐乳頭は長く、フサフサしており、背中の両側に6〜7グループに分かれて配置されている。前4〜5グループにはそれぞれ2つの乳頭があり、後の2グループには1つの乳頭しかない。足は直線状で、前・側方の角は角状になる。体色は淡い黄色で,鼻孔と枝状乳頭の上部にはオレンジ色のリングがある。

なぜか図が腹側からで背中や触覚が見えないという謎が謎を呼ぶ形となっています。

紀州産後鰓類目録

紀州産後鰓類目録

サキシマミノウミウシ という和名は、紀州産後鰓類目録にて命名されました。
問題は図も、サイズも書かれておらず、ただ採集地が瀬戸臨海実験所であるということがわかるだけ。。。

上の九州で採集された個体と同種であると考えていることもわかります。

相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉

サキシマミノウミウシ

サキシマミノウミウシ Flabellina ornata (Risbec)

自分で調べた範囲で サキシマミノウミウシ という和名を確認できる一番古い資料が相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉
1955年出版です
この時点で新称と書かれていないので更に古く命名されたものと推測されますが、見つけることが出来ませんでした
※持ってる人、知っている人教えてください

この絵だけから考えると左が現在のケラマミノウミウシ、右がサキシマミノウミウシの可能性があるようにみえます
ですが図鑑が手元になく文章を確認出来ないので、そこは一旦無視して先に進みます

サキシマミノウミウシ という和名で図版、説明、歯舌など載っているのが、相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉になります。
分布は、石垣島、紀伊、相模湾としていて、全て同種として扱っているのがわかります。

Flabellina ornata (Risbec)

相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉に書かれている、Flabellina ornata (Risbec) を調べると疑問がいくつか生まれます

Flabellina ornata Angas, 1864 : synonym of Austraeolis ornata (Angas, 1864)

1. 著者が Risbec ではない

これは、以下のような結果になっていました
Coryphella ornata Risbec, 1928 : synonym of Flabellina bicolor (Kelaart, 1858)

この内容は、この論文で確認出来ます
Gosliner, T. M. (1980 [“1979”]). The systematics of the Aeolidiacea (Nudibranchia: Mollusca) of the Hawaiian Islands, with descriptions of two new species. Pacific Science. 33(1): 37-77., available online at http://scholarspace.manoa.hawaii.edu/handle/10125/1455

Flabelina alisonae

Flabelina alisonae

論文中に DISTRIBUTION: Southern Japan (Abe 1964, Baba 1955), Okinawa (Baba 1936)
と書かれているので南方系のものを示していることがわかります
Flabellina alisonae という新規学名がついていますが、後にFlabellina bicolor のシノニムになっています。

よって、石垣のものは Flabellina bicolor であろうということで確定します。

余談ですが、ケラマミノウミウシという和名はウミウシガイドブック―沖縄・慶良間諸島の海からで、Flabellina sp. に与えられてて、以下に経緯などが書かれています

初版でサキシマミノウミウシとケラマミノウミウシの2つにしていたのを2版では双方ともサキシマミノウミウシにしてしまい、「沖縄のウミウシ」でもひとつの種として2つの写真を出しています。これは、ウミウシガイドブックの初版がほぼ正解でした(平野先生の見解でした・・・)。

サキシマミノウミウシとは・・・ : 小野にぃにぃの海と島んちゅ生活

2. Flabellina ornata Angas, 1864 ってなに?

学名でよく起こってしまう問題だと思いますが、属は違うけど種小名が同じ2種
Coryphella ornata (Risbec, 1928)
Flabellina ornata Angas, 1864

現代なのでインターネットなどで調べられますが、気づかずに
Flabellina ornata (Risbec, 1928) と属を変更した結果名前が被ってしまったのでしょう

Flabellina ornata (Risbec, 1928)
Flabellina ornata Angas, 1864

こうなってしまうと、別種なのに古いほうが優先ということになるので、 Flabellina ornata Angas, 1864 と勘違いされてしまい、その結果日本近海産貝類図鑑でこの学名が表記されてしまっているようです。
サキシマミノウミウシ – JODC Dataset – Biological Information System for Marine Life

Flokati Nudibranch-Austraeolis ornata
Austraeolis ornata (Angas, 1864)

というわけでこの学名は全然違う種ということがわかります

本州のウミウシ沖縄のウミウシ

サキシマミノウミウシの学名は Flabellina macassaranar Bergh, 1905 とされています
小野にぃにぃのブログにも出てくるのでなにか共通の認識があったのだろうと推測されますが、唐突ですね

Flabellina macassaranar Bergh, 1905

Bergh, L. S. R. (1905). Die Opisthobranchiata der Siboga-expedition. Siboga-Expeditie. 50: 1-248, pls 1-20.

この論文には以下のようなことが書かれています
・(たぶんインドネシアの)マカッサルの水深27〜32mで採集されたこと
・背中の色は、触覚の軸、触手、触手の色と同様に、赤みがかった黄色である
・触覚の先と背側突起の先は真っ赤で真上を向いている
・背側突起は6対

相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉に出てくるサキシマミノウミウシは明らかに白いし浅場に多いので疑問が残る同定となっていますが、2004から現在まで国内ではこのまま流通しました。

Samla takashigei Korshunova, Martynov, Bakken, Evertsen, Fletcher, Mudianta, Saito, Lundin, Schrödl & Picton, 2017

Samla takashigei

そんななか2017年に以下の論文で大瀬崎で採取された個体より Samla takashigei という新しい学名が付きます

Korshunova, Tatiana, Alexander V. Martynov, Torkild Bakken, Jussi Evertsen, Karin Fletcher, Wayan Mudianta, Hiroshi Saito, Kennet Lundin, Michael Schrödl & Bernard Picton. 2017 Polyphyly of the traditional family Flabellinidae affects a major group of Nudibranchia: aeolidacean taxonomic reassessment with descriptions of several new families, genera, and species (Mollusca, Gastropoda). ZooKeys 717: 1–139.

これによってようやく、 相模湾産後鰓類図譜〈補遺〉 に書かれた種に名前がついたことになります

結論

よって、サキシマミノウミウシの学名は、、、、、どれになるんでしょう?

紀州で採集された個体の標本、もしくは歯舌や図版が残っていたらそれが、 Samla takashigei もしくは、 Samla bicolor であることがわかれば確実です。がおそらく難しいのではないかと。

結局決めの問題というか現在流通している名前、また紀州で現在見られるウミウシを考えるとサキシマミノウミウシは Samla takashigei でいいんじゃないかな?と思うので世界のウミウシはそちらを採用とすることにします。

※仮にサキシマミノウミウシという和名が石垣の種に与えられた和名であれば Samla bicolor の和名がサキシマミノウミウシになり、 Samla takashigei の和名はオセザキミノウミウシになります。が、Samla bicolorは隠蔽種がたくさんいて今後も分かれると言われているし更にややこしいですね?

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