Chromodoris dianae はダイアナウミウシではない

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ダイアナウミウシがダイアナウミウシじゃなかったです、ごめんねという論文が出ましたので紹介します

 

Chromodoris dianae は 1998年に Gosliner と Behrens によって新種記載されました。(参考文献 1)

Chromodoris dianae sp. nov.

この論文では上の写真の2パターンは同種とされており、2015年出版の Nudibranch & Sea Slug Identification Indo-Pacific でも同一種として載っています。

論文中では

背中の中央線上に黒い楕円形の斑点やパッチができることがある。縁下帯と斑紋の模様は変化に富む

など、背中の模様にとにかくバリエーションが有ることが示唆されていてパターンの図も載っています。

それでも当時は形態上の違いはあっても種としての違いまでは明確にすることは出来ず同種として記載されました。

ところが以前に紹介したこの論文にて大規模に分子系統解析したときに C. dianae に隠蔽種がいることがわかり再調査が行われます。

そして今回の論文(参考文献 2)では 1998年に登録したホロタイプが参考文献 1の上の写真の方であると結論づけました(ホルマリン漬けなのでDNAは取れず形態から見分けたと書いてある)

a-d Chromodoris alcalai n. sp.

そして、A-D が、別種として記載され Chromodoris alcalai
今までカラバリとされていたE-H が Chromodoris dianae となりました

特徴は、C. dianae の外套膜周縁のオレンジ色のドットに眼が行きますがそれがないパターンもいるので(F, G)、

顔の模様が笑顔っぽく二次鰓が上半分だけオレンジ色なのが C. alcalai

二次鰓が全部オレンジ色でその内側だけ白い、顔が笑顔にならなくて●|●になるのが C. dianae

とすれば見分けられると思います。

和名がなければこれで終了なのですが、和名ダイアナウミウシが最初に確認できるのは 海洋生物ガイドブック になります。※同年のウミウシガイドブックはダイアナエと学名表記されている

益田 一. (1999). 海洋生物ガイドブック. 第1刷.

ここに載っている写真が C. alcalai であり、ウミウシガイドブック、新板ウミウシでも本種がダイアナウミウシとして載っています。※沖縄のウミウシではどちらも載っている

そんなわけで

和名ダイアナウミウシは C. alcalai 。

C. dianae に和名がついているのは見つけられなかったので和名なし。

というとんでもなくややこしい和名がまた生まれてしまいました。。。
これに関してはややこしいですが改称してもややこしいし、C. dianaeをダイアナウミウシとするのもややこしいということになりますので今後誰かが図鑑なり論文なりで和名を再提唱するときの変更に従うこととして終わります。

最後に、過去自分が撮ったダイアナウミウシの写真を見返すついでに世界のウミウシへの投稿よろしくお願いします

おまけ

なお、魚類の標準和名の命名ガイドラインにはこういった記載があります。

9 標準和名ではない和名

g 学名や英名等を翻訳した和名

これは貝類であるウミウシには適用されませんが、和名をつけた後に学名が変わることは多々ある現状を考えると必要な処置だよなと思います。

 

参考文献

  1. Gosliner, T. M.; Behrens, D. W. (1998). Five new species of Chromodoris (Molluscs: Nudibranchia: Chromodorididae) from the tropical Indo-Pacific Ocean. Proceedings of the California Academy of Sciences. 4(50): 139-165.available online at http://www.biodiversitylibrary.org/page/15659747
    page(s): 145-150
  2. Gosliner, T.M. (2020). Sleuthing cryptic chromodorids (Mollusca, Nudibranchia): adding to Philippine marine biodiversity. Philippine Journal of Systematic Biology. 14(2): 10 pp.
  3. 魚類の標準和名の命名ガイドライン

 

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