
図鑑『新版 ウミウシ』をつくった小野 篤司(おの あつし)さんにお話をうかがいました。難しい漢字があったら、おうちの人と一緒に読んでみてくださいね。
――小野さんが初めてウミウシを見たのはいつですか?
伊豆海洋公園で海に潜って魚や生き物の写真を撮る仕事をしている時に見つけました。でも、そのころはまだ名前のわからないウミウシがたくさんいたんです。図鑑にも「ウミウシの1種」としかありませんでした。
――小野さんはどうしてウミウシの本をつくろうと思ったんですか?
日本の研究者にもわからなかったウミウシが海外ではどんどんわかってきていたんです。今住んでいる沖縄ではウミウシを研究している大学の先生がいて、本州よりも研究が進んでいました。それで本にしようと考えました。
――ウミウシの本づくりは楽しかったですか?
ウミウシはまだ研究が進んでいない分、わかりそうでわからない、でもわかってきたところからだんだんわかってくる、パズルみたいな面白さがありましたよ。

――日本のウミウシ研究はまだまだ遅れているんですか?
くわしい研究がはじまったのは最近のことなんです。とくに、本州のミノウミウシは属や科さえわからないものがたくさんいます。みなさんの中にそうしたウミウシを研究する人が出てくるかもしれません。これからが楽しみですね!
――今までで小野さんが見つけてうれしかったウミウシを教えてください。
タチアオイウミウシの完全個体を見つけた時はうれしかったです。1年に1個体出るかどうか、という貴重なウミウシなんです。それまでにも何度か見つけましたが、鰓(えら)の前の突起に傷がついたものばかりだったんです。

――小野さんがこれまでに見た一番小さなウミウシはどれくらいの大きさですか?
1ミリ半くらいかな。でも、ほかの人が見つけた小さなウミウシは見るのが難しいんです。そんな時は私はルーペを使っています。
――日本のウミウシに変化は感じますか?
ウミウシがどこで見られるかはどんどん変わっていくものなんです。でも、数はこの20年で減ってきているように感じます。
――ウミウシ好きな人にチャレンジしてほしいウミウシはいますか?
まずは、私の図鑑を参考にインターネットで「センテンイロウミウシ」と「ニヨリセンテンイロウミウシ」の写真を調べて判別してみましょう。このふたつはもともとは「センテンイロウミウシ」にまとめられていたのが、実は別のウミウシだったことがわかりました。とてもよく似ているんです。いつかダイビングをはじめて海に潜れるようになったら、自分でも探して写真に撮ってみてください。
次は、キヌハダの仲間にチャレンジしてみてください。すっごいたくさんいるので、とても難しいですがきっと楽しいですよ。
もっともっとウミウシについて詳しくなってきたら、まだ分類されていない「隠蔽種(いんぺいしゅ)」を探してみましょう。センテンイロウミウシのように、似ているだけで別種かもしれないウミウシがまだまだたくさんいます。それに、図鑑に載っていないウミウシがいたら、もしかするとまだ誰も発見していない新種かもしれません。
――図鑑で名前を調べるために、どうやって写真を撮るのがいいですか?
図鑑を見て、どうやって見分ければいいのか調べておくといいですね。あとは横からだけでなく、真上から、前から、後ろから、いろんな方向から撮っておきましょう。
――図鑑『新版 ウミウシ』はどんなところにこだわっていますか?
私が子どもの頃、たくさんの図鑑を読んで育ちました。だから、図鑑を使う人の気持ちになって、どうすれば使いやすいか、知りたいことがわかるか、たくさん考えてつくりました。
日本で見られるウミウシを紹介する図鑑なので、外国で撮られた写真は使わず、できるだけ傷のない成体のウミウシ写真を選びました。また、名前は標準和名を使っています。
――どんな人に読んでほしいですか?
大人はもちろん、小学生のウミウシファンもたくさんいるので、ウミウシに興味がある人にはぜひ読んでほしいです。
これまでに、海でつかまえたウミウシを水槽に入れて写真やビデオをくれた子や、自分でつくった工作のウミウシを持ってきてくれた子もいました。親子で会いに来てくれた子もいましたね。時間が合わなくて、まだ会えていない子も。みんなどうしているかな?
そんなみなさんに、夢を与えられるような本だったらいいなと思っています。
――最後にメッセージをお願いします。
生物の多様性を守ろう、ってよく言うけど、どうしてウミウシはこんなにたくさんの種類がいるんだろう。たくさんの種類がいる今はずっと続くのかな。温暖化や寒冷化、台風や沿岸の開発で住みにくくならないかな。きっといなくなっちゃうのもいるだろうけど、なんとか道を見いだすのが生物。そんな強さや生きざまを見てあげて。
