ヒラシコロサンゴを食べる唯一のウミウシ Phestilla viei が新規記載されました

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記載されました。
ヒラシコロサンゴ Pavona explanulata (Lamarck, 1816) を食べる種は現状では全部これ、シコロサンゴ属の他のサンゴを食べる子は今後の研究次第で更に分かれるかもしれないね、ということになります。

https://seaslug.world/species/phestilla_viei

この論文で大事なのは Discussion の部分だと思うのでこちらを紹介します。

ゴスライナーの Nudibranch & Sea Slug Identification – Indo-pacific の2nd Edition から Phestilla, Trinchesia, Cuthona 属などがなくなり、全部 Tenellia 属になっているのは気づきましたか?

以前一度このブログでも書きましたが(https://blog.seaslug.world/archives/640
Cella et al. (2016) にて、今後分類し直すためにすべての属を統一するということがなされてそれを採用しているからです。

Fionidaeの中では、Tenellia属、Trinchesia属、Phestilla属、Catriona属、およびCuthona属の大部分の種と未記載種を含む群を発見した (PP = 0.99, ML = 54)。この主要な種群の中には,Tenellia adspersaとTrinchesia caeruleaの2つのタイプの種が見られるが,Cuthona nanaは見られない。最も古い名前はTenelliaであり、最も分かりやすい選択肢を選択するために、このクラッドに含まれる全ての種をT. adspersaを原種とするTenelliaに移行させた(図3A)。しかし、すべての種をTenelliaに移行することには問題がある。本来のTenellia属の特徴は口腔触手が少ないことであるが,この点は新たに移行した種には共通していない。しかし,この系統のすべてのメンバーに共通する一貫した特徴は,よく分離された明瞭な小頭の列が存在することである。形態学的なシナポポルフィの発見にはさらなる研究が必要であり,本研究の範囲を超えている。

Cella et al. (2016)

しかし、これも以前ブログで書きましたが(https://blog.seaslug.world/archives/712
Korshunova et al. (2017)はこれを明確に否定しています。

現在、Cellaら(2016)によって属名Tenelliaの下に統一されている。しかし、Cella et al. (2016)によって提示された分子系統樹自体は、この決定に強く反している:1)この系統樹は、多属アプローチで支持できる多くの異なるクラッドを持つ複雑な系統パターンを明らかにしている。3) Tergipes Cuvier, 1805, Fiona Alder & Hancock [in Forbes & Hanley], 1853, Cuthona Alder & Hancock, 1855の属はCella et al. したがって、なぜTenellia属が統一の基礎として選ばれたのかは不明である。これまでは純粋に仮説的な議論として、伝統的なTergipedidaeの名前を統一する必要があるならば、入手可能な最も古いTergipes Cuvier, 1805 (Martynov 2002)という名前を使うべきではないかと提案されていた。Tergipes属は “Trinchesia “スーパークレイドよりも基部に位置しているが、それでもかなり密接に関連している(Cella et al. 2016: 9) (Fig. 6C)。しかし、その選択肢はCellaら(2016)によって議論されなかった。このような論理の下で、形態学的にも生態学的にも根本的に異なる遠洋性のFiona属(CuthonaやTrinchesiaを含む伝統的なTergipedidaeのすべての属名とともに)は、利用可能な最古の属名であるTergipes Cuvier, 1805の同義語でなければならない。Cellaら(2016)は、Fiona, Tergipes, CuthonaはCatriona, Phestilla, Tenellia, Trinchesiaとは形態学的に「より」異なっており、また「Trinchesia」スーパークレードの基底にあるため、独自の属名が必要であると考えたのではないかと推測される。しかし、Tenellia s. str. 属は形態学的にかなり変化しており、Aeolidacea 属の大部分のグループの中では、小さな口蓋を持っているという点でユニークであることを考えると、このような仮説的な提案でさえ正当化されない

Korshunova et al. (2017)

そして2019年に、サンゴを食べるウミウシを大規模に調べた論文が出ていました。
Fritts-Penniman AL, Gosliner TM, Ngurah Mahardika G, Barber PH
(2019) Cryptic ecological and geographic diversification in coralassociated nudibranchs. Mol Phylogenet Evol 144
こちらにはこんな記載がされています。

私たちの結果は、Cella et al. (2016)による以前の研究でPhestillaの使用を否定していたことを支持するものでもある。もしこの変化を認識しなかった場合(すなわち図S5)、系統間の系統的な関係から、Phestillaを属として、Cuthonaを複数の属に分けなければならないことになります。より単純な解決策は、Cellaら(2016)が決定したように、Tenellia adspersaを原種とし、より大きなクラッドを現存する最も古い属であるTenelliaと同義語にすることである。新しいTenelliaの定義のためのシナポモルフィーを決定し、TenelliaのPhestilla群の中で種間の変動の範囲を検出するために、追加の形態学的作業がまだ必要である。

Fritts-Penniman et al. (2019)

これらを踏まえて今回の論文は以下のように書かれています。

Fionoidea上科はその分類学的歴史の中で多くの属を含んできた。それらの多くは形態学的データを用いて剪定されたが(Miller 1977; Williams and Gosliner 1979)、未だにいくつかの名称の妥当性は何人かの著者によって論争されている(Burn 1973; Miller 1977; Williams and Gosliner 1979; Brown 1980; Miller 2004)。Phestilla属とTenellia属の同義語は最近Fritts-Pennimanら(2020)によって再検証された。これらの著者は、「Cellaら(2016)による以前の研究を支持している…この種(Phestilla)はより大きな種の中に入れ子になっており、そのメンバーはTenelliaと同義語化されている」という彼らの結果に基づいて、この決定を正当化している。Fritts-Pennimanら(2020)は、これが最も単純な解決策であると指摘していますが、それは、代替案として、偽物のCuthona属を多くの属に分けることになるからです。一方、Fritts-Penimanら(2020)は、Phestilla属、P. chaetopterana、Pinufius rebus Marcus & Marcus, 1960のすべての種を含む、よく支持された単系統群の存在を認識しており、彼らはそれを「Phestilla clade」と呼んでいる。Phestilla属を同義語化するという分類学的決定は、Cellaら(2016)とFritts-Penimanら(2020)が分子的な結果を用いて見出した最も単純な解決策にすぎないが、これらの結果の支持にもかかわらず、彼らはPhestilla属の無効を意味しない有効な代替案を論じている。さらに、我々は、分子データを超えて、十分に熟考されていない他の文字が存在するKorshunovaら(2017)に同意する。

日本語訳がすごくわかりにくいですが、全部Tenellia属にするのは単純でわかりやすいけど、結局サンゴを食べる子たちを区別するために “Phestilla clade” と言うならそれ属として分けるほうがわかりやすいよね、ってことだと思います。

これら踏まえてPhestilla属とは以下のように定義されました

  • 口腔内触手は滑らかな丸みを帯びており(P. rebus comb. nov.を除く)
  • 口蓋は丸みを帯びている
  • 心膜は時に腫れたこぶを形成する
  • 背側突起は分枝せず,傾斜した列に規則的に配列する
  • 背側突起は細長いものからクラブ状のものまであり,大部分の種では球根状で,先端は拡大している
  • イシサンゴ目のサンゴを餌とする(P. chaetopterana を除く)

参考文献

Mehrotra R., Arnold S., Wang A., Chavanich S., Hoeksema B.W. & Caballer M. (2020). A new species of coral-feeding nudibranch (Mollusca: Gastropoda) from the Gulf of Thailand. Marine Biodiversity. 50:36, 16 pp., available online athttps://doi.org/10.1007/s12526-020-01050-2
page(s): 5

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